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Summerland サマーランド/蜃気楼の国

イギリス映画 (2020)

第二次大戦中、ロンドンの東にある英仏海峡沿いの町ラムズゲート近郊の町に疎開してきた少年の話。主役は2人いて、この少年フランクと、彼を嫌々預かることになった超常現象研究家のアリス。物語は、①1920年代末、②1940年代前半、1975年の3つに分かれて語られる。時間配分は、全体のほぼ10%が①、5%が③なので、フランクの登場する②が映画のメインとなる。③は映画の冒頭と最後に配置され、それなりに分かりやすい。①は、本編の中に6回にわたって短く、アリスの “思い出” という形で挿入される。大学生時代のアリスが、ヴェラと親しくなり、1920年代には禁忌だったレスビアンの関係となるも、どうしても “母親” として子供が欲しくなったヴェラが去っていった悲しい回顧録だ。かくして、アリスは、社会を忌避し、孤立して生きてきたため、周囲からは嫌われ、子供達からは魔女やナチのスパイとして悪戯の対象になっている。そこに、“義務” として無理矢理にフランクが押し付けられる。フランクは、最初、“勝手にそこにいろ” とでも言わんばかりの冷遇を受けるが、持ち前の人懐っこさとアリスの研究への好奇心から、2人の間には一種の友情が生まれるようになる。この過程の中で、フランクはアリスが見たくてたまらない “蜃気楼による浮き島(サマーランド)” を見てしまう。それは、戦闘機のパイロットだったフランクの父の死の予兆でもあった。やがて、届いた戦死の知らせを、アリスはフランクに話す勇気が持てない。偶然、そのことを知ったフランクは、すべてに絶望し、母のいるロンドンに逃げ帰るが、自宅は空爆にあって破壊されていた。その後に起こるクライマックスは、複雑な筋書きにして初めて可能となるようなユニークなもの。他の映画では観た経験がない。全体によくまとまっていて、脚本の破綻もなく、一見に値する映画だ。ただ、あらすじでも指摘したように、①と②のアリスを同じ俳優が演じているため、①の場面で②のアリスが混在する際、違いが分かりにくいのが唯一の欠点と言える。全体の10%なのだから、この部分には年相応(ハイティーン)の俳優を使うべきだった。

映画の冒頭、1975年の、老アリスがガミガミ女ぶりを発揮し、寄付を求めにきた子供たちをがっかりさせる。映画は、すぐに30年以上前に戻り、中年のアリスが同じように嫌われ者であることを示す。このアリスは、態度もすごく生意気で、やることなすことエキセントリック。他人にどう思われようと構わない、はっきり言って “いけ好かない” 女性だ。そんなアリスにとって、最悪なことが起きる。政府から疎開児童の受け入れ命令が届き、フランクという少年を押し付けられたのだ。これは、お互いにとって迷惑な話で、フランクは100%放っておかれ、自分がどうすればいいかも分からない。それでも、一応、翌日 学校にだけは連れていってもらえ、そこでイーディという偏屈な少女と同席になる。お互い疎外された者同士、2人は何となく親しくなる。そして、フランクと一緒に家の近くまで行ったイーディは、アリスのことを魔女と呼んで、それ以上近づこうとはしない。アリスが、他人にも変人と思われていることを知ったフランクだったが、持ち前の優しさと好奇心から、アリスが打ち込んでいる “仕事(趣味)” に真摯な興味を寄せる。それを評価したアリスは、自分が研究している海の蜃気楼 “浮き島” についてフランクに教え、この近くの海岸でも見られるかもしれないと教える。フランクはすぐに行きたいと頼み、連れて行ってもらう。そして、なぜかフランクにだけ、海上に浮かぶドーヴァー城が見える。それからの2人は、ますます親密になるが、当初の約束だった1週間の預かり期限が来て、アリスはフランクを学校へ連れて行く。すると、校長は、次の受け入れ先は別の町で、別の学校に通うことになると告げる。フランクは、この学校が好きになっていたので、それをすごく悲しむ。フランクのことが好きになっていたアリスは、校長に対し、改めて正式にフランクを受け入れると申し出る。すべては順調に行くかと思えた時、フランクの父が戦死し、保護者として、アリスがフランクにそれを告げなくてはならなくなる。しかし、アリスにはどうしても話すことができない。そのうち、校長からその話を聞いたイーディが、フランクが “父の死も知らされずに嬉しそうにしている” のを見て腹を立て、思わずフランクに真実を話してしまう。ちょうど同じ頃、フランクに “きちんとした部屋” を与えようと、荷物を整理していたアリスは、中に入っていた写真から、フランクが、“昔、一生一緒にいたいと愛したヴェラ” の息子だと知る。フランクは、父の死を知り、母に会おうとロンドン行きの汽車に乗り、それを知ったアリスは直ちに車でロンドンに向かう。アリスが捜し当てた先で発見したのは、空爆で破壊された家の前に立ち尽くすフランクだった。アリスは、ロンドンに留まる危険性を訴え、何とかフランクを車に乗せて家に向かう。家の近くまで来た時、フランクが 「車を停めて!」 と叫び、一目散に海岸に駆けて行く。後を追ったアリスは、フランクと一緒に、海上に浮かぶドーヴァー城を見る。“浮き島” 、イコール、“フランクの父の魂がいるサマーランド” なので、フランクの前に現れたのだった。

せっかくラムズゲートの近郊が舞台となったので、忘れ去られては惜しいと思い、今はなきホバークラフトSR.N4について紹介しておこう。この世界最大の商業用ホバークラフトは、1968~2000年の間、ラムズゲートとフランスのカレーの間を運航していたもので、30台の車と254人の乗客を乗せ、時速130キロでの海上走行が可能だった。“浮き島” ならぬ、“浮き船” である。私も、早春に1回と夏に1回 利用したことがあるが、長さ56m、幅24mの巨体が、空気圧で浮上し、砂浜の上を滑走してそのまま海に突入する光景には度肝を抜かれた。下の写真は、私がカレーで乗る前に撮影したもので、イギリスから渡ってきたホバークラフトが海から砂浜に乗り上げる瞬間。ホバークラフトは、この後、ターミナルのある手前奥まで浮上しながら砂浜の上を走行する。船体の下の黒い部分は噴射される空気で丸く膨らんでいるが、着地するとしぼんでしまう。

フランクを演じるルーカス・ボンド(Lucas Bond)は、TV映画1本を含め、これが7本目の映画出演。前6本の映画は主役級ではなく、予告編に登場するくらいの脇役だったものは2本。最初の出演作『Lady of Csejte』(2015)と、その2年後の『Slumber』(2017)だ。下に、それぞれの写真を紹介する。いずれも、オカルト的な映画で、ルーカスにとって、フランク役は転機ともなる作品だった。年齢を含め、情報は一切ない。

あらすじ

「ケント、1975年」と表示される。もっと具体的には、ケント州の北東端に近いラムズゲート(Ramsgate)の近郊の一軒家に住むアリスという老作家が 映画の冒頭に登場する。彼女は、タイプを打ち損じ、紙を挟み直して打ち始める。すると、ドアをノックする音が聞こえる。そして、「ラムさん」と呼ぶ 子供の声が聞こえる。アリスは、タイプをやめ、ドアを開け 「何なの」と つっけんどんに訊く。10歳以下の男の子が、「チャリティのお金を集めてます」と言う。アリスは 「よかったわね」とだけ言い、背を向けようとする。もう1人の女の子が、「高齢者を助けるためです」と説明する。アリスは、「君たち、老人の助け方 知ってるの? あっちに行って」(1枚目の写真、左下の黄色の星印は1975年であることを示す)とガミガミ声で言うと、ドアをバタンと閉める。そして、再びタイプライターに向かう。そして、カメラが窓の外の白亜の崖を映す。そして再びタイプライターに戻ると、それを打っているのは30代のアリス。意地悪で生意気そうな雰囲気は、30年後よりももっと先鋭的。時代は、あとから1940年代前半だと分かる。窓のところに3人の少年が現われ、壁に貼られたケント州の地図にマークがしてあるのを見て、「見ろ、ナチのスパイだ」と言うと、郵便受け〔家の壁に直接付いていて、外に出なくても中身を受け取れる〕に大量のゴミ〔木片や石〕を押し込む。音に気付いたアリスは、ドアまで走って行くと、3人に向かって 「こら!」と怒鳴る(2枚目の写真)。アリスは、ゴミを袋に詰めると、歩いて学校に向かう。途中で、町に入った時、口うるさそうな老婆に、「ラムさん、今夜WVS〔女性ボランティア・サービス〕の会合があるわ。いらっしゃる?」と声をかけられるが、アリスは 振り向きもしない。そして、校長室まで入って行ったアリスは、校長の机の上に持ってきたゴミをぶちまける(3枚目の写真)。そして、「警察に行くわよ」と文句を言う。「子供の悪戯ですよ」。「それとも、散弾銃を買うわよ」。アリスが引き揚げた後、教頭が校長に、「乱心の熱と炎に冷たい忍耐をふりかけなさい」と、『ハムレット』の第三幕第四場で王妃ガートルードが息子のハムレットに向かって言う台詞を言う。校長は、「シェイクスピアは、『机の下に隠れろ』と書くべきだった」と、答える。

アリスは、歩いて帰宅する途中、駅の横を通る。その時、何気なく映るシーンが1枚目の写真。矢印は、この映画の2人目の主人公フランク少年。この時点では何の説明もなくチラと映るだけなので、観客は誰も気付かない。彼は、ロンドンから疎開をするために汽車に乗ってこの駅までやって来て、ボランティアで引き受けてくれる人が迎えに来るのを待っている〔誰も来ない〕。アリスは、食料品店に入る。店主とお客の老女は、先ほどWVSについて声掛けした2人なので、アリスから顔を逸らす。“村八分” の感じだ。店には他に先客がいて、それは10歳くらいの少女を連れた母親。少女は、カウンターの脇に置いてある板チョコが欲しくてたまらない。母親は、「チョコレートを買うだけのクーポンがないのよ」と娘に言い聞かせる。それを聞いたアリスは、少女が欲しそうに触っていたチョコレートを手に取ると、クーポンで購入する。それを見た母親は 「何てご親切な」と喜び、娘に 「素敵なおばさんに何か言うことはないの?」と言う。店主は にこやかにクーポンを受け取り(2枚目の写真、矢印はクーポン)、少女にウィンクする。アリスはチョコレートを手に取ると、少女には渡さず、さっさと店を出て行く(3枚目の写真)。それを見て、老女と店主は、その非情さに呆れ、少女は大声で泣き出す。アリスというのは、なんて意地悪な女性なのだろうと、観客に強く印象付けるシーンだ。

家に戻ったアリスが 再びタイプライターに向かっていると(1枚目の写真)、ドアがノックされ、女性の声で 「ラムさん」と呼ばれる。アリスは、ドアを開け、「何よ?」と ぶしつけに訊く。「1時間前に来てもらえるとばかり」。「何が?」。「他の全員は駅で会ったのよ。可哀想なフランクだけ1人残されて」。ここで、女性が、一緒に連れて来た少年に 「フランク」と呼びかける。「この人がラムさん。あなたの保護者よ」(2枚目の写真)。「何かの間違いよ」。「アリス・ラム。デューン・コテージで間違いないでしょ?」。「でも…」。「フランク、入って」。「だめよ。そんな子 要らない」。「拒めないわよ。手紙を受け取ったでしょ」。アリスが否定するが、郵便受けにはまたゴミが押し込まれている。それを見たアリスが、郵便受けの籠を持ってきてドアの前にぶちまけ、中から1通の手紙を拾う(3枚目の写真、矢印は籠)。アリスは 即座に封筒を開き、一読した後、「あなた、連れて行きなさいよ。私には仕事がある」と、利己主義の固まりのような主張をする。「私は、4人預かってるの」。「5人にしたら?」。そう言って家に戻ろうとするアリスを、女性は実力で阻止する。そして、1週間後に他の場所を見つけからそれまで面倒を見るようにと強く命じ、そのまま、逃げるように立ち去る。

アリスは、フランクを睨みつけ、ドアを開けたまま、自分だけ部屋に戻る(1枚目の写真)。フランクは、しばらくドアの前に立ち尽くしていたが、アリスがずっとタイプを打っているのを見て、家に入ってもいいと感じ、玄関の中に荷物を置き、ビー球を転がして遊び始める(2枚目の写真)。アリスが、その “転がる音” に気付いて、「勝手に触らないで」と叱ると、両手を拡げてみせ、「触ってないよ」(3枚目の写真)。その返事に、アリスは、「からかってるの?」と訊き、フランクは、「夕食は?」と訊き返す。

アリスは。皿の上に、生卵、皮の剥いていないジャガイモ、生肉を置くと、フランクの前に皿ごと滑らせる(1枚目の写真)。「料理なんかしてもらえると思わないこと。ストーブがあるでしょ」。これほどひどい女性も珍しい。家から持参したパジャマを着たフランクがソファのところで迷っていると、アリスは 「何か要る?」と訊く。「いつも寝る前に、ベッドで牛乳を飲んでたよ」(2枚目の写真)。「よかったわね」〔牛乳を飲ませる気はさらさらない〕。「洗面はあそこ。私のクリームに触らないで」。フランクは、持参した歯ブラシを持って洗面に行く。アリスは、自分の物には勝手に触るなと言ったくせに、フランクの持ち物には勝手に触り、中から小冊子を見つけ出す。それを見たフランクは、「それ、父さんだよ」と言う。「パイロットなの?」。「第21飛行隊。飛行機は好き?」。「大嫌い。睡眠妨害だから」。「父さん、勲章を2つもらってる」。アリスは、それ以上何も言えなくなる。

翌朝、アリスは草花の観察に熱中している。その背後にフランクが現われる。「何なの?」。「学校に行かないと」。「行けば」。「どこにあるの?」(1枚目の写真)。アリスは、仕方なくフランクを学校まで連れて行く。学校では、校長がアリスの接近を見て、身構える。「これほどすぐ お会いできて嬉しいですな」〔教育者としての外交辞令〕。「この子を返したいの」。校長は、そんなムゲな要求は無視し、フランクに、「セント・ニコラス校にようこそ。この地方で一番の学校だ。君は、クラス2に入る」と告げ、秘書を呼ぶ。秘書:「いらっしゃい」。フランクが少しもじもじしていると、アリスが、「行きなさいよ。臆病だと嫌われるわ」と、いちいち口うるさい(2枚目の写真)。フランクがいなくなると、アリスは校長に、「あの子と いつおさらばできるの?」と訊く。「代替者を見つけるのは 恐ろしく困難です」。「じゃあ、すぐにでも始めたら?」。そう捨て台詞を残すと、アリスはさっさと立ち去ろうとする。「物語の執筆でお忙しいでしょうが…」。「学術論文よ」。

フランクは、教室で、「ロンドンからの疎開者」と紹介される。そのような生徒が多いせいか、誰も関心を示さない。隣が空席の最後尾の机に座らされる。その時、遅刻して入って来たイーディが、ぶすっとした顔でフランクの隣の自分の席に着く。担任に度重なる遅刻を注意されても 気にもとめない。それでも、担任は 「この子は、フランク。お隣さんよ。仲良くね」と、笑顔でイーディに話しかける(1枚目の写真)。しかし、イーディが最初にしたことは、チョークで 机の中央に、2人の領域を分ける線を引いたこと。途中にフランクの鉛筆が置いてあったので、そこだけ外して線を引く(2枚目の写真)。それを見たフランクは、鉛筆をすぐに引っ込める。すると、イーディは残った隙間にも線を引く。そして、「隣の席の子なんか信じない」と言う。教師は、「綴り字帳を出して」「フランク、イーディのを一緒に見て」と声をかける。ところが、イーディは見せてくれない。「私、個人主義なの。独立独歩の人間よ。仕方なくここに座ってるけど、個人主義者は規則には縛られないの」。ここで、教師が、大声でイーディに注意し、彼女は机の中から綴り字帳を出す。それを見たフランクはニヤニヤする。休憩時間中、校庭でフランクが何かを手で握っていると、イーディが寄って来て、「それ何?」と訊く。「秘密」。「見せて」。「何くれる?」。「スカートの中、見せようか?」。「遠慮するよ」。「どこに住んでるの?」。「女の人の家。1週間だけなんだ」。「なぜ? 何か悪いことしたの?」。「まさか」。「ロンドンから逃げてきたのよね」。「ママはロンドンにいるよ」(3枚目の写真)。「私のママは死んだわ」。「パパは?」。「戦争」。「僕のパパもだ」。フランクの手の中の物は、ペパーミント半分で見ることができたが、中身は甲虫だった。

フランクは アリスの家に戻り 一人でランチを食べている。アリスは、テーブルの向かいに座り、資料を読むのに忙しい。フランクが、アリスの背後の棚を見たので、彼女は 「読んでもいいのよ」と言う。フランクが断ると、「なぜ?」と訊かれる。「面白そうじゃないから」(1枚目の写真)。この言い方は拙かった。「私が書いたのよ」。フランクは、思わず下を向いて 目線を合わせないようにする。でも、それも悪いと思い、「物語なの?」と訊いてみる。「そうじゃない。伝承、作り話、幻覚などとされているものの分析よ」。ここで、フランクは、変なことを言い出す。「風邪を引いたイタリア人を何て呼ぶか知ってる? 冗談なんだよ。ママが教えてくれたんだ」。「分かるわけないわ」。「ジュリアス・スニーザー〔Sneasar〕」(カエサル〔Caesar〕と鼻たらし〔sniffle〕を融合させた)。フランクは自慢げに言ったのだが、アリスの反撃は血も涙もない。「イタリアは1961年まで統合されてなかった。だから、『風邪を引いたローマ人を何て呼ぶ?』と言わないと。お母さんにそう言うのね」。フランクは海辺まで降りると、一人で つまらなさそうに遊ぶ(2枚目の写真)。その後、校長室で、机の前に座ったフランクに、校長が 「君は、腐ったリンゴを摘んでしまった。重大な結果を招くかもな。なんせ、海辺の怪物だから」と言ったあとで、「冗談だよ。君ならやっていける。辛い時も元気で行こう」と鼓舞する。

学校の帰り、フランクが木の枝を振り回しながら歩いていると、後ろから自転車に乗ったイーディが追いつく。「森に毒蛇がいる。来ない?」。「遠慮するよ」。「怖いんだ」。「怖くない」。「1匹捕まえておいて、ドイツ兵にさらわれたら、紅茶の中に毒を入れてやるんだ」。「紅茶が嫌いだったら?」。「誰だって好きよ」〔如何にもイギリス人〕。そして、「どこ行くの?」と訊く。「預かってもらってる所」。そう言って、フランクは棒でアリスの家を指す(1枚目の写真)。「あそこには、魔女しか住んでないわ」。怖いもの見たさにイーディはアリスの家に近づく。「あの人だわ。一緒に住んでるの?」。「うん」。「狂ってるのよ」。「誰が言ったの?」(2枚目の写真)。「お祖母ちゃん。それに他の人も。ナチに信号を送ってるんだって」。「してないよ。本を書いてる」。「呪文だわ」。「違う。伝承みたいなもん」。「奴隷にされたのね。骨になるまで働かされるわ」。「そんなことされないよ」。

庭で、アリスが本を開いて読んでいると、興味を持ったフランクが近づいて行く(1枚目の写真)。「それ、アーサー王の話?」。「違う。モーガン・ル・フェイ〔アーサー王の異父姉〕よ。魔術師だった」。「ファタ・モルガーナって何?」〔モルガナのお化け=蜃気楼のこと〕。「ジャガイモ 掘ってるんじゃなかった?」。フランクは、再びジャガイモを掘り始める。アリスは、可哀想に思い、説明してやる。「モーガンが 船乗りを死に誘き寄せたという伝説から来た言葉よ」。「どうやって?」(2枚目の写真)。「浮かぶ島の幻で。魔法をかけられた船乗りが、導かれるままに船をぶつけ、沈んでしまうの」。フランクは、再びアリスの近くに寄って行く。アリスは 「空に浮かぶ島の伝説は 一杯あるのよ」と説明する。「なぜ?」。「信じたがる人が多いから。魔法とか、神とか、いろいろとね。すべてナンセンス。だけど、みんな何かを見たに違いない」。家に戻ったアリスは、壁に貼った地図に “浮かぶ島” の絵をピンで止めていく。その様子を示したものが3枚目の写真。中央やや左上部のピンは、イタリア半島の先端に刺してあり、そこから左下と右下に赤い糸が引っ張ってある。右の赤い糸の先は イタリア半島の先端の拡大地図で、「Reggio」と手書きされた紙がピンで止めてある。“Reggio” は、レッジョ・カラブリア(Reggio Calabria)のこと。シシリー島のメッシナの対岸の町だ。このピンの右に縦に2枚ピン止めされている写真と絵は、この町でかつて観察された “浮かぶ島”。

その時、いつも悪さをする3人の不良の声がし、アリスが急いで飛び出して行くと、巻き添えを食ったフランクが地面に倒され、膝をケガしている(1枚目の写真)。アリスは すぐにフランクをキッチンに連れて行ってイスに座らせ、オキシフルを浸した布で傷を消毒しようとする。フランクは、イーディの話が耳に残っていたので、何かされるかと疑い、「ナチじゃないよね?」と訊く。アリスは 「ナチよ。ベッドで殺してあげる」と冗談を言ったあと、「違うに決まってるでしょ。さあ、こっちに出して」と脚を引っ張る。「痛い?」。「強くなりなさい。みんなに臆病だと思われたいの?」。この言葉で、フランクは膝をアリスの前に出し、オキシフルで消毒してもらう(2枚目の写真)。落ち着いてから、2人で、玄関に散らばった木くずを掃除する。フランクは 「あいつら、なぜ、こんなことするの?」と尋ねる(3枚目の写真)。「独り身の女性を からかって楽しんでるのよ」。「どうして?」。「たまたま そうなったんでしょ」。

この言葉をきっかけとして、アリスの回想シーンが始まる。時は、1920年代の末。アリスがまだ20歳前後だった頃だ。ある夜のパーティで、アリスは初めてヴェラと出会う。ヴェラは、名前のことを 「不思議の国のアリスから?」と訊く。アリスは 「微生物学者のアリス・エヴァンス〔Alice Evans、1991-1975〕からよ。父の発案なの」と答える。その後の会話で、アリスの父は亡くなっていて、彼女は あまり気にしていないことが分かる(1枚目の写真、左下のピンクの星印は1920年代末であることを示す)。一方、「歴史科の学生」「小説を書いてる」 と自らを紹介したヴェラは、「せっかく ここに来たんだから、最大限楽しみましょ」とアリスを誘う(2枚目の写真)。この2人を演じているGemma ArtertonとGugu Mbatha-Rawは、撮影時31歳と34歳。残念ながら、とても大学生には見えない。なぜ、別の俳優を使わなかったのだろう? 因みに、ヴェラ役のGugu Mbatha-Rawは、母がコーカサス地方〔ジョージアかアゼルバイジャン〕出身の白人、父が南アフリカ出身の黒人。アリスとヴェラはレスビアン。1920年代には性倒錯者と思われていた。ヴェラは、後で、バイセクシュアルとして妥協するが、それは、その時代にあってはよくあったこと。

一瞬の思い出は消え、戦時中の現実に戻る。アリスが、蜃気楼の分析を進めていると、壁に貼られた地図に興味を持ったフランクが、紙の字を何とか読もうとしている。そこには 「ヤオ湾(Yao Bay)」と書かれていた。アイルランドのヨール(Yaughal)の東にある湾だ。フランクは 「これ何なの?」と訊く。「目撃例よ。1916年、ある画家が、海の上に浮かんでいる島を見たと言った」(1枚目の写真)。そして、レッジョ・カラブリアの湾と、ヤオ湾の形を赤い線で塗った部分をフランクになぞらせる。「同じ形だね」(2枚目の写真)。アリスは、その言葉に喜び、「じゃあ、これを見て」と言うと、ケント州の地図の上にピンを指し、「私たちはここにいる」と言い、ラムズゲートから南の海岸線を赤く塗る(3枚目の写真)。ラムズゲート、レッジョ・カラブリア、ヤオ湾の現在の航空写真(Google map)を、同じ縮尺で示したのが4枚目の写真。壁の地図は映画用に修正が加えてあるが、実際には3つの湾は大きさも形もかなり違う。似ている部分は、鍋型に窪んでいて中央がやや凸型に出ている点だけ。アリスは、このような地形の場所が、浮島が見られる条件なのではと推測している。そして、フランクに古い新聞記事を見せる。そこには、「ドーヴァー、ラムズゲート間の崖はドーヴァー城を見えなくしている」「ラムズゲートの住民の中には、海に浮かぶドーヴァー城を見た者もいる」と書かれている。

アリスは、実際に試すことにする。フランクは 「僕も行っていい?」と頼む(1枚目の写真)。自分の趣味に興味を持ってくれる子は “可愛い” ので、アリスは喜んでフランクを連れて行く。アリスが運転するのは、当時最もポピュラーだったオースチン7という車。2人は海に面した崖の近くの草地の上に布を敷き、並んで横たわる(2枚目の写真)〔後で述べるが、ラムズゲートの南には白亜の崖は存在しない。撮影場所はシーフォード(Seaford)の東にある人里離れた白亜の崖で、ラムズゲートの南西約100キロにある〕。2人は、蜃気楼が いつ見えるか分からないので、横になったまま 暇つぶしに会話をする。フランク:「飛行機に乗ったことある?」。「ないわ」。「怖いの?」。「君は、いつも そういう失礼な質問するの?」。そう釘を刺した後で、「君は?」と訊く。「パパに乗せてもらった」。「どうだった?」。「すごい騒音で、時々息ができなかった」。「怖くなかった?」。「敵に撃たれた時だけ」。その時、急にフランクが興奮し、「ほら、あそこ!」と指差す。「どこ?」。「大きな雲の下」(1枚目の写真)。しかし、アリスには何も見えない。「見て、塔がある! タレット(小塔)に緑の旗のある浮き島だ!」。アリスは、「ゲームでもしてるつもり?」と怒る。「これは、私の仕事なのよ! ドーヴァー城は旗など掲げない」。「だけど、タレットに緑の旗があったんだ」。アリスは、立ち去ろうとする。「どこに行くの?」。「家よ」。「僕の家じゃない!」。「じゃあ、そこにいるのね」。アリスは、フランクを残して自動車に乗り、一応確かめてみようと、近くにあるドーヴァー城まで行ってみる。すると、タレットに緑の旗が翻っている(4枚目の写真)。浮かぶ島は、なぜかフランクには見えて、アリスには見えなかったが、彼の話は嘘ではなかった。そこで、フランクを置き去りにした場所まで戻ると、心から謝る。

フランクのことを見直したアリスは、フランクが 拾ってきた木で作った模型飛行機が全然飛ばないのを見て協力することに。軽い材質の木片を集めさせ、翼の端を丸く削らせる。アリスは、翼の両端に英空軍のマークを描く。こうして出来上がった飛行機を持ったフランクは、アリスと一緒に崖に向かう(1枚目の写真)。フランクが 「もし壊れたら?」と心配すると、アリスは 「飛行機は壊れるものよ。問題は、その時、君が どうするかなの」と諭し(2枚目の写真)、フランクから 「別のを作る」という言葉を引き出す。「なら、何を待ってるの?」。フランクが投げた飛行機は、崖から真っ逆さまに墜落して 崖下の狭い砂利浜にぶつかって壊れる。夕方になっても2人はまだ外にいる。フランクは 「なぜ 旦那さん いないの?」と訊く。アリスは 「なぜ、奥さんいないの?」と変な逆襲をしたあと、「私に夫なんか要るかしら?」と、今度はまともに 言い返す。それでも、フランクはあきらめない。「結婚したことは?」(3枚目の写真)。「ない」。「なぜ?」。「もの当てゲームなの?」。

ここで、アリスの思いは再び過去へ。「Peggy Ann」という1926年のミュージカルで使われた「Where's that rainbow」をヴェラが歌いながら運転し、アリスも時々唱和する(1枚目の写真)。ヴェラの車は、10数年のアリスの車と同じオースチン7〔1922年から生産〕。2人は、煉瓦造りの一軒家に着くと〔誰の、どのような家なのかは不明〕、水着に着替えて池ではしゃいだり、芝生に寝転んで素足を比べたりする。その映像と、1940年代の肌の荒れたアリスの映像が時々重なり、非常に分かり辛い。2人の最後のシーンは、夜、ベッドに横になり、ヴェラが 「お父さんのこと、まだ恋しい? それでもいいのよ」と アリスに声をかける(2枚目の写真)。アリスが、その言葉に反撥したように見えたので、ヴェラは 「あなたは、誰もいなくて済む人だと思うわ」と言う。アリスは 「今は、一人きりじゃないわ」と言って、ヴェラに微笑みかける。そして2人はキス。

フランクとイーディが 磯で小魚を捜している(1枚目の写真)。「ここにいたんだ。でも、素早く動くから」。そこに、アリスが寄って来て、イーディに 「あなた、学校のお友だち?」と声をかける。フランク:「イーディだよ」。アリス:「今日は、イーディ」。しかし、イーディはうつむいたまま何も答えない〔アリスを魔女だと思っている〕。アリスは、フランクに 「手紙が来てるわ」と教える。フランクは、イーディに 「来ないか」と誘うが(2枚目の写真)、イーディは、「冗談でしょ」と言って走って逃げて行く。「手紙、どこ?」。「テーブルの上」。そう言いながら、アリスの目はイーディを追っている。

家に戻ったアリスは、手紙を読んでいるフランクに 「何だった?」と訊く。「パパが新しい飛行機に乗る。ラッキー・ヴェンチュラ〔venturaはイタリア語でラッキーの意味〕って言うんだ。青の双発機だよ」(1枚目の写真)。「お母さんは?」。「大臣と話してる」。「大臣と? 何を?」。「言わないよ。戦争だから」。「ちゃんと返事を出すのよ」。そう言って立ち上がると、アリスはタイプライターの前に座り、短い手紙を打つ。そこには、2枚目の写真に示したように、「ロイ様。あなたの息子は、私の意向を全く無視して我が家に押し付けられました。彼は元気です。敬具」というもので、早く引き上げろと言っているようにも見えるが、元々1週間と言われていて、少なくとも3日は経っているので、単に苦情が言いたかっただけだろう。アリスは、手紙をフランクに渡し、返事に同封するよう命じる。フランクが、「これ何?」と訊くと、「君がもたらした苦痛について、一言書いただけ」と答える。それを聞いて悲しそうな顔になったフランクに、アリスは、「気にしない。あと数日で君はいなくなるものね」と、さらりと言う。「僕、どこに行くの?」。「学校の生徒の家族でしょ。ずっと楽しいわよ」。「ここに いちゃダメ?」。これは、アリスにとって意外な問い掛けだった。てっきり嫌われていると思っていたからだ。そこで、「言ったでしょ、仕事があるの。君がそばにいると、打ち込めない」。半分 罪滅ぼしの意味で、アリスはフランクを誘って手紙を出しに行く。名目は、「タルト〔お菓子〕 探し」。

町からの帰りの会話。フランク:「雲の中に浮かんだ島って天国なの?」。「いいえ、ただの物理現象。蜃気楼よ。天国を信じてるの?」。「そうだよ」。「キリスト教徒が 自分たちの癒しのために創り出したものなんか信じちゃダメ」。「どうして分かるの?」。「事実だからよ。キリストより前に死んだ人たちはどうなるの? 魂はどこに行くの?」(1枚目の写真)。そこまで話すと、アリスは急に相好を崩し、「サマーランド〔映画の題名〕よ」と、秘密を教えるように話す。「サマーランドはどこにあるの?」(2枚目の写真)。「ここよ」。「ケントに?」。「そうじゃない。私たちの周り。気付かないし、見えないけれど、魂たちは何かを伝えようとしている」。「どうやって」。「パターンを乱すことで」。アリスは雲を指し、その絶えざる変化をパターンの乱れだとフランクに示唆する。「ペイガン〔自然崇拝者、多神教の信者〕たちは、それをサマーランドからの合図、魔法だと思ってる」。フランクは 「特別な時しか見えなくて、死者がサインを送ってるんなら、サマーランドは浮島なんだ」と言い出す(3枚目の写真)。アリスが 「もし、それが本当なら、浮き島は蜃気楼で、サマーランドはペイガンの天国ね」と否定しても、フランクは 「どうして分かるの? 見たこともないのに」と反論する。

翌日、フランクとイーディは、ネズミを交代で握っている。フランク:「もういいだろ? 僕の番だ」。「まだ、そんな時間じゃないわ」。「頼むよ」(1枚目の写真)。そこに、アリスが来て、「それ何よ?」と 気持ち悪がる。「モリーだよ」。「家の中には入れないで」。さっそくイーディが逃げようとするが、うまく立ち上がれない。アリス:「足をどうかしたの?」。フランク:「岩で滑ったんだ」。イーディ:「違う」。「消毒しないと」。「いらない」。「感染したくないでしょ」。イーディは、それでも逃げようとするが 痛くて動けない。そこで、以前のフランクのように、オキシフルで傷を消毒されることに(2枚目の写真)。これで、イーディにも アリスが悪い人ではないことが分かる。しかし、「夕食 食べていかない? フランクの最後の夜だから、お祝いしないと」と勧められると、招待には喜んだものの 「(祖母に)許してもらえない」と断る。

夜になり、折角の最後の夜の食事なので、フランクは、レコードを取り上げて、「これ かけていい?」と訊く(1枚目の写真)。それを見たアリスは、厳しい声で、「戻しなさい」と叱るように言う。「何なの?」。「戻して!!」〔ヴェラの思い出の品〕。フランクは直ちに戻し、テーブルにうつむいて座り込む。一時の怒気が収まったアリスは、フランクの皿を受け取ると、「ごめん。あれは 大事な贈り物なの」と謝ってから、“さよなら会” の料理をつける。「誰から?」。「女性のお友だち」。「あなたが好きだった女(ひと)?」。「今、何て言った?」。フランクは黙っている。「女性が他の女性を好きになるって 変だと思う?」。「ううん」。これは、重要な返事。これを聞いたアリスは、思わず相好を崩し、そして悲しい顔に戻って口を押える(2枚目の写真)。そして、「大抵の人は、不道徳なことだと思うの」と話す。「なぜ?」。「分からない。でも、地獄の業火で焼かれて当然の罪悪だと思われてる」。「嫌いな人と結婚するより、いいんじゃない?」。アリスは、話題を変える。「家では、ハグされてた?」。「時々」。フランクは、話を戻す。「その女(ひと)とキスした?」。「イエスだと答えたら、どんな感じがする?」。笑顔で 「さあ…」。「イエスよ。どう思う?」。「素敵だね。唇に?」(3枚目の写真)。「そうよ。ほら食べて。シチューが冷めるわ」。

翌朝、フランクは、疎開に来た時の鞄を持って、アリスと一緒に家を離れる。アリスのコテージの写真は、この角度が一番好きなので、もっと前にも違う角度の映像があったのだが、この場面まで待つことにした 。絶景に立つ、素晴らしい一軒家だ。ただし、これは合成。前にも書いたが、ロケ地は英仏海峡に面したラムズゲートではなく、シーフォード(Seaford)の南東3キロにあるHope Gapという岬の辺り。2枚目の写真は、そこで撮影されたグーグルの360゚写真。その矢印の辺りにコテージがある〔実際には、何もない〕。だから、コテージからは、白亜の崖が連なるのが真正面に見える。学校に着いたフランクに、校長は 「いい知らせだ。受け入れ家庭が決まったぞ。引退した ちゃんとした人達だ」と言う〔アリスが、“ちゃんとして” いないようにも受け取れる〕。しかし、その後が悪かった。住んでいる場所が違うので、この学校には通えないというのだ。フランクは 「新しい学校なんかに行きたくない」とアリスに訴える。アリスも 「ここに置くべきよ」とプッシュするが、小学校は居住地で決まっているので、無理だと校長は断言する。フランクは、なぜかアリスに向かって 「話が違うじゃないか! なぜ嘘なんか?!」と、強く非難する(3枚目の写真)〔アリスのせいではないのだが…〕。「私だって知らなかった」と言うが、フランクは、何とも言えない顔でアリスを見ると(4枚目の写真)、そのまま学校の中に入って行く。

家に戻ったアリスは、別離の悲しさから、3度目の過去に戻る。雑草の茂る野原の横になった2人。アリスはヴェラの手相を見ている。2人の仲の良さが良く分かる(1枚目の写真)。その占いは、2人だけの楽しい将来を示すものだった。ところが、ヴェラは、いきなり、「家族が欲しい」と言い出す(2枚目の写真)。これは、2人の関係に重大な転機をもたらす発言だった。「私が 母親になりたいと言ったら?」。

放課後、イーディが 「遊びに行こうよ」と誘っても、フランクはうなだれたまま返事もしない(1枚目の写真)。そこに、校長が寄ってきて、「新しい家族に会う準備はできたか?」と声をかける。フランクは、仕方なく立ち上がると、一緒に校長室に向かう。部屋のドアの前で、校長は 「行儀よくするんだぞ」と注意する(2枚目の写真)。ところが、ある意味、意地悪で、冗談好きの校長がドアを開けると、そこに待っていたのはアリスだった(3枚目の写真)。

再び2人でコテージに戻ると、1週間の短期滞在ではないので、戸棚の1つをフランク専用にする。しかし、フランクの顔は冴えない。「どうしたの?」。フランクは、アリスの顔を直視すると、「なぜ、ここにはいられないって言ったの?」と質問する〔以前、「ここに いちゃダメ?」と訊き、断られた〕。「気が変わったの。ごめんね、フランク。真実よ。嘘はつかない」。フランク:「約束だよ」(1枚目の写真)。アリス:「約束するわ」〔重大な伏線〕。そして、「あの校長、君の誕生日は 明日だって言ってた」と付け加える。急にフランクの顔が明るくなる。「ケーキ、食べられる?」。「やってみましょ」。その時、ノックがして、イーディが鉄くず回収を誘いにくる。2人が出かけた後、重大な問題が起きる。最初にフランクを連れてきた女性が、また現れたのだ。彼女を見たアリスは、「2人目は要らないわ」と釘を刺す。ところが、その女性は 「フランクはいる?」と訊く。「イーディと出かけたわ」。「あの子に話すことが」。「何なの? 戻ったら伝えるわ」。「あの子の父親が…」。それしか言わないが、戦死したとの知らせだ。「電報が来たの」。女性は、その後も続けるが、動転したアリスの耳には入らない。耳に入ったのは、「あなたから話して」という、恐ろしい言葉。「私が?!」。女性:「いつまでも、ここで待ってはいられない」。「あの子の母親が、話すべきだわ」(2枚目の写真)。「連絡を取ってるんだけど、政府の高官だから、解放してくれないの」。「電話なら?」。「電話? まだ 子供なのよ。面と向かって話し、手助けしてあげないと」。「今日は、あの子の誕生日なの。話せないわ」。「今夜、話せば」。そう言い残して、この冷酷でつんけんした女性は去って行く。アリスには、どうしたらいいか分からない。時だけが 経って行く。

薄暗くなってから フランクが戻ってくる。食卓に座ったフランクは、「誕生日パーティ開いていいでしょ? イーディがきっと来てくれる」とおねだりする(1枚目の写真)。しかし、アリスの顔は冴えない。彼女は、思い切って、「フランク…」と切り出す。でも、あとが続かない。夜になり、アリスは 就眠時間になってフランクの部屋を訪れる。フランクがベッドに横になり、コップ一杯の牛乳を飲んでいる。この家に来た初日に、「いつも寝る前に、ベッドで牛乳を飲んでた」と言っていた希望が叶ったことが分かる。先に、フランクの父の訃報をもたらした女性は、「今夜、話せば」と言っていた。しかし、アリスには どうしても話せない。そこで、砂利浜に出て行き、昔、最も辛かった時に思いを馳せる(2枚目の写真)。

ピンクの星印印の付く最後の場面。アリスが部屋に戻って来ると、ヴェラが荷造りをしている。「何してるの? 時間をくれるって言ったじゃない」。「言おうとしたけど、耳を貸さなかったじゃない」。「でも、愛してるわ」。「私たちに何ができて? 外出すらままならない2人のオールドミスになるの?」。「あなた、そんなに臆病だった?」。「子供もいない。みんな何て言う? こうしたことに… あなたに。私、母親になりたいの。何よりも」(1枚目の写真)。「私たちよりも?」(2枚目の写真)。その後、アリスは全力で止めようとするが、ヴェラは荷物をまとめて家を出て行ってしまう。これが、2人にとって永遠の別れとなった。以後、アリスは、ヴェラがどこでどう暮らしているか、全く知らずに暮らしてきた。この経験が、アリスを “一人暮らしの嫌われ者の変人” に変えてしまった。

翌朝、フランクは、アリスと一緒に、黄色の編み帽を被って登校する。イーディに 「それ何なの?」と笑われると、「誕生日の帽子だ」と嬉しそうに答える。そこに、“訃報の女性” が近づいてきたので、アリスは、フランクを校内に押しやる。そして、彼女から逃げるように立ち去る。学校が終わって、フランクとイーディが駆けっこをしていると、イーディが祖母と出会う〔映画の冒頭、アリスにWVSについて声掛けした老女〕。祖母:「その子だれ?」。イーディ:「フランクよ。今日が誕生日なの」(1枚目の写真)。「それはおめでとう。パーティするの?」。「はい。サマーランドを見つける旅に出るつもりです」。イーディは、いらないことを言ったフランクのお腹を叩く。祖母は、フランクがアリスの受け持ちの子だと悟り、イーディを連れて帰ろうとする。そこに、迎えに現れたアリスが、フランクを連れて行く。店に隠れていた祖母は、イーディを店から連れ出し、そのまま校長室に向かう。目的は、アリスのような “不適切” な人間に子供を預けるべきではないと、抗議するため。祖母は、娘をフランクと違うクラスに入れるよう要求する。しかし、状況は校長の一言で一変する。「お願いしますよ。あの子は、父親を亡くしたばかりですぞ。友達の温かい支えが必要なんです」(2枚目の写真)。2人、特に、イーディはびっくりする。校長は 「ご存じない?」と訊く。祖母は首を横に振る。「週末に空母が撃沈されました。最悪の事態です」。祖母:「彼に話しました?」。「いいえ、ラムさんが」。それを聞いたイーディは、“話してない” と確信する(3枚目の写真)。

アリスとフランクがコテージに帰ると、そこにはイーディが待っていた。アリスは、「来ないかと思ったわ。ケーキがあるわよ」と声をかける(1枚目の写真)。そして、家の中に入ってからも、フランクは、レコードをかけて楽しそうに踊り始める。フランクが 「来いよ、イーディ」と誘っても、難しい顔で 「踊りたくない」と断る。そして、アリスに冗談で目隠しをされたフランクに向かって 「誕生日に何もらったの?」と尋ねる。「帽子だろ、見せたじゃないか」。「そうじゃない。ママやパパからよ」〔なぜ両親から何も送ってこないのだろう? 母はロンドンで政府の役人だから 十分可能だし、父も空母が撃沈される前に、手紙くらい出せたはず〕。イーディの目的を察したアリスは、“すがるような顔” で首を横に振る。イーディは、何も言わずに外に走り出していく。アリスはイーディを追いかける。イーディは途中で止まると、「話してないのね!」とアリスを責める。「守ろうとしたのよ」。「嘘つき!」(2枚目の写真)。「今日は誕生日なのよ。明日 話すわ。約束する」。何も答えようとしないイーディに、アリスは必死になって、「ここは私に任せてちょうだい。彼には何も言っちゃダメ。分かった? 聞いてるの?」と説得しようとする。しかし、イーディは、手を振り切ると逃げて行ってしまう。

夕方まで まだ時間があるので、白亜の崖の上でフランクは 「訊いていい?」とアリスに質問する。「なぜ、僕に見えたのかな?」。「何が?」。「サマーランド。あなたには見えなかった。なぜなの?」。アリスは、「眼鏡が要るのかも」と誤魔化す。「誰かが 僕に話しかけようとしたのかも」(1枚目の写真)。「ただの伝承よ。光の屈折のトリックに過ぎないの。砂漠の蜃気楼と同じよ。本物じゃない」。翌日、フランクが学校に行っている間、アリスは、フランクの部屋をもっと素敵にしてやろうと、荷物の整理を始める。一方、学校では、授業の終了後、校長は廊下にいたフランクを 「とても気の毒だったな」と呼び止める。「何か 話したいことがあれば…」。フランクは、笑顔で 「結構です」と断る。校長は、如何にも嬉しそうな笑顔に戸惑う。「もう慣れました。大丈夫です」(2枚目の写真)。これは、アリスの家のことを言ったのだが、校長は父の死のことを言っているのだと勘違いする。「私の前だからといって 気丈に振る舞う必要はないんだぞ。ひどいショックだからな」。この言葉が理解できないフランクは 「もう行っていいですか?」と、その場を離れる。

家で整理をしていたアリスは、フランクが作った “空軍兵士としての父のすべて” を集めたアルバムを楽しく見ていて、1通の手紙に気付く(1枚目の写真)。宛先は、「フランク・ロイ/デューン・コテージ/マルコム〔架空の地名〕/ケント」で、ロンドンから出されていた。そして、その封筒の下に重ねてあった写真を見て、アリスは驚愕する。そこに映っていたのは、ヴェラとフランクだった(2枚目の写真)。フランクは、アリスにとって 一生で一度の恋人の “息子” だったのだ。アリスの動揺は激しい(3枚目の写真)。

そして、これまで見てきたフランクの “おふざけ” が、ヴェラとそれとそっくりだったことを思い出す(1~3枚目の写真に、左右対比して示す)。

学校で “あやとり” をしていたフランクとイーディは、ふとしたことから言い争いになる。そして、イーディは、「あんた最低よ。あいつを 好きになるなんて」と、突然、汚い言葉で罵倒する。「僕は、最低じゃない」。「最低よ。あいつは、あんたの頭の中に入り込んでる」。「『あいつ』 って?」。「魔女よ。魔女、魔女、魔女。嘘つき魔女」。「黙れ! あの女(ひと)は魔女なんかじゃない!」。「嘘つきよ。ぜんぜん知らないんだから」。「君こそ 嘘つきだ」。「あいつは嘘つきよ。あんたバカだから、気が付かないだけ」。「嫉妬してるんだ」。「嫉妬? なんであたいが嫉妬すんのよ?」。「君には、ママがいないから」(1枚目の写真)。「あいつは嘘つきよ! あんたの父さんが死んだのに、話そうともしないほど嘘つきなの!」(2枚目の写真)。イーディは、言ってはならないことを言ってしまった。「何言ってるんだ? パパは元気だ。死んじゃいない! 何か言えよ!」。自分の失言にショックを受けたイーディは、何も言えない。イーディが本当のことを言ったに違いないと感じたフランクは、そこから走り去る。一方、アリスは、どうしても知りたいことがあり、車でイーディの祖母の家に乗りつける。そして、最初に郵便受けに入っていた通知書を振りかざし、「あなたも、こんな様式の手紙 受け取った? 政府からの?」と尋ねる。勝手な来訪を迷惑がられて追い出されそうになると、「お願い教えて。キャシー〔イーディの家に来た疎開の少女〕が選ばれたと、どうやって知ったの?」と訊く(3枚目の写真)。「知らないわよ。ただ、割り当てられただけ」。アリスは、フランクが偶然ではなく、意図的に自分の家に預けられたことを知る。当然、政府の役人であるヴェラの指示だ〔ヴェラは なぜそのことをアリスに伝えなかったのだろう??〕

イーディは、フランクのことが心配になり、校長に自分の失敗を伝えたのであろう。校長は、「考えてごらん。フランクが会いに行きたいと思うとしたら、お母さん以外にないだろう」と示唆する(1枚目の写真)。イーディは駅に向かって走り出すが、校長は 「もう間に合わないぞ」と止める。しかし、責任を感じたイーディは、それを無視して駅まで駆けていくが、ちょうど列車が発車したところだった(2枚目の写真)。2人が駅から戻ってくると、その姿を見たアリスが、「フランクはどこなの?!」と詰め寄る(3枚目の写真)。校長は、駅長に、男の子が1人でロンドンまで乗車したことを聞き込んでいたので、アリスは、自動車でロンドンまで行こうとする。校長は、危険なので止めるが、アリスは耳を貸すことなく、自動車でロンドンに向かう。自然石の道標が映り、「ロンドン 43」と書かれている。70キロ弱だ。そんなに遠くはないが、戦時下なので、女性一人で行くのは無謀だったのかもしれない。

アリスのドライヴ、道標以外に映ったのはトンネルだけ。ケントの田舎のトンネルかと思っていたが、調べてみたらロンドン市内、それも、観光名所のタワーブリッジから僅か2キロ以内にあるテムズ川の下をくぐる河底トンネルだと分かりびっくりしたので、1枚目にそのシーンの写真を掲載する(1枚目の写真)。このトンネルの現状を2枚目の写真の左、平面図と断面図を、同右に示す。図で、①の印が付いているのが、1843年に開通した世界初の河底トンネルのテムズ・トンネル。現在は、地下鉄のトンネルに転用されている。そして、②の印が付いているのが、アリスが通ったロザーハイズ(Rotherhithe)トンネル。1908年に開通した長さ1482メートルのトンネルの南側の坑口。因みに、タワーブリッジは、なぜ “タワー” かと言うと、大型船が通れるように跳開構造になっていて、橋が上がっている時も、歩行者は、塔の頂部をつないだ橋を通って渡れるようになっているから。そして、その1つ上流にあるロンドン橋は背が低いので、船はここまでしか遡上できない。逆に言えば、タワーブリッジより下流には、1つも橋はない。テムズ川を越えようとすればトンネルを掘るしかなかったので、ロンドン市内には、他にも多くのトンネルが掘られた。因みに、3枚目の絵は、1900年頃のタワーブリッジの上流のロンドン港。ここまでは、タワーブリッジがあるから大型船が入港できた。しかし、テムズ川の下流にこれ以上跳ね橋など造れないので、すべてトンネルとした。現在の静かなテムズ川とは様相が全く違っているし、大気汚染も凄い。

アリスは、ロンドン・ヴィクトリア駅の構内に車を乗り入れる(1枚目の写真、矢印)。そして、列車の中に入って行って探すが、フランクの姿はどこにもない。その後、アリスは、最初の手紙に書いてあった住所を目指すが、その地域一帯は空襲を受けた直後なので騒然としている。ようやく辿り着いた先で見たものは、破壊され尽し、まだ燃えている建物の残骸の前で立ち尽くしているフランクの姿だった(2枚目の写真、矢印はアリス)。アリスは、泣いているフランクの前に駆け付ける(3枚目の写真)。アリスは、air raid warden(空襲監視員)に必死に情報を求めるが、被害が広範囲(6区画が空襲に遭った)にわたっているので、「待て」と言われただけ。その時、さらなる空襲警報のサイレンが響き渡る。

アリスはフランクと一緒に防空壕に避難する(1枚目の写真)。2人の姿が映るが、会話は何もない(2枚目の写真)。そして、翌朝、廃墟となった家の前で、アリスはフランクに話しかける。「何か分かったら、電話をかけてくれることになってる。フランク、お母さんは、あなたにロンドンに留まって欲しくないと思ってるわ。危険だもの。お母さんのためにも、一緒に帰りましょ」(3枚目の写真)。

フランクは何も言わなかったが、次のシーンではアリスの車に乗っている。アリスが何を言っても無視し続けたフランクだったが、白亜の崖に近づいた時、「車を停めて!」と言い出す。「何?」。「停めて!!」(1枚目の写真)。車が急停車すると、フランクはドアを開けて飛び出す。アリスも必死にあとを追う。フランクは崖の下の砂利浜に降りて行くと、泳いで、先端に飛び出た小さな岩塊の上に這い上がる(2枚目の写真)。そして、振り向くと 「知ってたのに言わなかった」と責める。「言おうとしたけど、言葉が出なかったの」。「予感がした。パパを見た。パパは、サマーランドにいる」。フランクはそう言うと、向きを変えて空の彼方を見る(3枚目の写真)。すると、水平線のかなり上に、浮き島の上に建つドーヴァー城がくっきりと見える(4枚目の写真)。以前と違い、それは アリスにもはっきりと見えた。

ドーヴァー城の姿は、次第に雲へと変わっていき、やがて何もなくなる(下の一連の写真)。

蜃気楼が消えた後も、フランクは、ずっと海を見続ける。アリスは、フランクの横に座ると、「ごめんさない」と謝る(1枚目の写真)。フランクは何も言わない。アリスは、海が好きだった父について話す。「父は言ってた。ヴァイキングが死ぬと、ボートに乗せ、火を点けて海に流すんだって。火によって魂は自由になり、天国に向かって飛んで行くの。だから、父が亡くなった時、ボートを作ったわ」。この話に、フランクがようやく反応を示す。「どんなボート?」。「紙と棒きれで作った。暗くなるまで待って、火を点けて、海に流したの」(2枚目の写真)「さよならを言ってあげるには、いい方法よね」。

アリスは、フランクを、きれいにアレンジした部屋の前に連れて行く(1枚目の写真)〔疎開してきた子供ではなく、愛したヴェラの子供なので、半分自分の子供のような気でいる〕。フランクがドアを開けると、そこは魔法の空間。アリスは、「ここに長くはいないって分かってるんだけど、いる間は君のものよ」と 優しく言う。フランクは、父と一緒に戦闘機の前で撮った写真を引っ張り出してくる。そして、「一度、操縦席に座らせてもらったんだ」と自慢する(2枚目の写真)。「お母さんは ご存じなの?」。「ううん。ママは飛行機が怖いんだ。車は好きだけど」。そのあと、2人は外に出て、軽い棒きれを探し、飛行機の翼の骨組みを作り始める。

2人がコテージに戻って来ると、ランプの火が点いている。「消してこなかったの?」。「消したよ」(1枚目の写真)。アリスは中に入らず、そのままテラスの方に歩いて行く。すると、白亜の崖を見晴らせるテラスには、ヴェラが立っていた(2枚目の写真)。すると、フランクの、「ママ!」という叫び声が聞こえる。フランクとヴェラは固く抱き合う(3枚目の写真)。

恐らく翌日。辺りが薄暗くなってから、イーディを加えた4人は、完成した “紙の木枠を紙で包んだ飛行機” を携えて崖の上に行く。操縦席に当たる部分の凹みには背の低いロウソクが立ててあり〔高いと風で火が消える〕、その後ろにフランクが父の写真を置く。そして、ロウソクに火を点け、3人でそっと持ち上げる(1枚目の写真)。フランクは、飛行機を掲げるように持つと、そのまま走り始め、飛行機を空に向かって放つ(2枚目の写真)。後ろからそっと近づいたヴェラが、フランクの肩に手を置き、一緒に飛行機を見守る(3枚目の写真)。飛行機は順調に飛び続け、ロウソクの火だけが明るく輝いて見える(4枚目の写真)。まるで、父の魂が空に向かって飛んでいくように。この映画の中で、最も美しいシーンだ。

10数年ぶりの2人の短い会話。アリス:「旦那様、お気の毒ね」。ヴェラ:「フランクを守って下さって、ありがとう。信頼できる人は あなたしかいなかったの」(1枚目の写真)〔なら、なぜ最初に名乗らなかった??〕。アリス:「私が、これほど愚かでなければ、フランクを死ぬほど危険な目に遭わせるなんて。ごめんなさいね」。ヴェラ:「あなたが、あの子の命を救って下さったのよ。ありがとう」(2枚目の写真)。

ここから場面は、一気に30年以上飛び、映画の冒頭の1975年に(黄色の星印)。老齢のアリスがタイプライターに向かっている(1枚目の写真)。仕上がった原稿の表紙には、「IN SEARCH OF SUMMERLAND(サマーランドを探し求めて)」と打たれている。立ち上がったアリスが棚の上を見ると、30数年前にフランクの持ち物の整理をしていて見つけた写真が一杯飾ってある(2枚目の写真)〔なぜ、その後の写真が1枚もないのだろう? 普通なら、定期的に “アリスおばさん” を訪れ、その度にフランクの成長の写真が増えていくはずだと思うのだが…〕

そこに、老齢のヴェラが迎えに来る。フランクが来るからだ。アリスは、棚の上のフランクの古い写真に目をやると、表紙を打ち直す。そして、満足そうな笑みを漏らすと、原稿の束を持ってコテージの外に出て行く。アリスは、白亜の崖の前に広がる砂利浜にいるヴェラとフランクに向かって歩いて行く(1枚目の写真)。そして、2人の所まで来ると 「完成したわ。信じられる?」と嬉しそうに言う。中年の男性になったフランクが 「見てもいい?」と訊く。アリスは原稿の束を渡す。表紙に打たれていた文字は、2枚目の写真のように、題名の下に献辞が加えられている。「インスピレーションを与えてくれたフランクに」〔意訳/フランクが ドーヴァー城の蜃気楼をサマーランドと呼んだことに端を発するので、これは当然の献辞であろう〕。3人は手を取り合って仲良く歩き始める〔大人になってからのフランク役の俳優には、正直言ってがっかりした。まるで似ていない。だから、アップでの紹介は止めた〕

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